あやこが語る 事件解決!推理シーンの書き方――読者の脳に「証拠ボード」を建てろ
事件解決!推理シーンの書き方――読者の脳に「証拠ボード」を建てろ
「名探偵の口上、いざ!」って入りたいけど、やってみると説明の山になって読者が脱落しがち。推理シーンは情報整理×演出×感情着地の3点セットで化ける。ここではラノベ/小説オタク編集の視点で、今すぐ使える設計図と見せ方をがっつり渡す。君の“謎解きフィナーレ”、読者の脳内で拍手と鳥肌を同時に起こそうぜ。
1. 推理シーンの目的は「三つのカタルシス」
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知的カタルシス:伏線が因果で一本に繋がる快感
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倫理カタルシス:犯行理由に納得し、物語の価値観が立ち上がる
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物語カタルシス:次章へ続く負債(余波/代償)を残す
解決は「メモの読み上げ」じゃない。「世界の再配置」だと理解すると、見せ方が変わる。
2. 証拠は色分け:「FOP+CME」方式で棚卸し
推理シーン前に、作者用に証拠の棚卸しを作る。読者に全部見せる必要はないが、作り手は分類しておくと破綻しない。
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F(Fact/事実):物理的に観測されたもの(時刻、位置、温度、記録)
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O(Opinion/解釈):誰かの主観(「焦っていた」「怒っていた」)
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P(Perception/知覚):見た/聞いた等の証言(誤認が混ざる)
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C(Clue/手がかり):矛盾・違和感・例外(例:“濡れたのに足跡がない”)
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M(Motive/動機):利益・恐怖・愛・見栄
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E(Means&Opportunity/手段&機会):能力・道具・時間窓
ルール:解決シーンでは、Fを軸にPを削っていく。Oは揺らぐので、最後に意味づけで回収。
3. 口上の型:「宣言→棚卸し→仮説→反証→決定打→感情着地」
6ブロックで推理ショーは安定する。目安は合計1500〜2500字。
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宣言:「犯人は、あなたです」ではなく**“解く条件”を先に宣言
例:「この部屋は密室ではありません**。“鍵”が偽物だから」 -
棚卸し:必要最小限を見取り図/タイムラインで提示(箇条書き可)
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仮説:犯行の手順を“連続の物語”で語る(空白を作らない)
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反証:読者の想定ツッコミを先回りして潰す(代替仮説も一本は出して折る)
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決定打:可視の証人を出す(物/人/自然法則)。できれば二本目も重ねる
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感情着地:動機に寄り添い、余波(法的・社会的)を一行で刺す
NG:決定打の前に感情語りを長々やる
OK:決定打→崩れ落ち→ひと呼吸→動機の核を短く差す
4. 「見える」推理:ビジュアル化の三種の神器
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タイムライン:00:10(停電)→00:12(叫び)→00:13(廊下の水音)
→時刻の空白が一目でわかる -
俯瞰見取り図:窓/死角/音源/視線の線を引く
→文字でも「北=窓、東=棚、南=出入口、西=水槽」と方位で語る -
ホワイトボードトーク:探偵が書く/消すの動作で論点を進める
→動作が段落のリズムになる
読者の脳内に証拠ボードを立てるイメージで、節の頭に“見取りの一句”を添えると迷子にならない。
5. ロジックの骨:必要条件/十分条件/反実仮想
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必要条件:「濡れた靴」があれば必ず水場を通った?→No(替え靴トリックがある)
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十分条件:「水槽の蓋が外れている」→魚が床に落ちていれば十分に水が飛ぶ
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反実仮想:「もし犯人がAでなければ、Bは起きない」→起きているからA
**一箇所だけ“数学口調”**を入れると、推理の重さが出る。入れすぎは読者を置いていくので注意。
6. ミスリードの管理:「赤いニシン」は利益説明で無力化
偽手がかりは置くべき。でも拾い方が命。
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置き方:読者の自然な偏見に乗る(派手な喧嘩/元恋人/金欠)
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回収:「それは犯人に利益がない」で潰す
例:「派手に怒鳴ったのは監視カメラの死角を作るため。でも彼はその時間に用はない」
**“利益があるか”**で線引きすると、無駄な疑いが整理される。
7. セリフは探索の刃:質問の順番
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オープン質問:「事件当日、何を?」(自由回答で矛盾源を作る)
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クローズ質問:「00:12に水音を聞いたのは、あなたともう一人だけですね」
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刺し込み:「その靴、乾く時間が短すぎます」
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沈黙:2秒の無音を描写→嘘の負荷を可視化
セリフの直後に小さな身体反応(舌打ち、視線、呼吸)を置くと、心理戦になる。
8. 伏線の回収は「再定義」で光る
同じ情報を別の意味で再登場させる。
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1章:掃除ロボが毎正時に動く(日常描写)
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解決:正時に足跡を消す凶器運搬(機能の再定義)
読者は“覚えていたもの”が“解決に効く”と脳内でドーパミンが出る。
9. 物理と数字:感覚を定量に変える
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距離:廊下は全長18m/犯行に必要な移動は7m
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時間:人の走歩タイム(1秒=1.5〜2m)をざっくり使う
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音:扉が閉まる音量は隣室で会話を遮るほど(証言→計測アリ)
“なんとなく”を一度だけ数字にする。推理が立体になる。
10. 「推理ショー」演出の小技10
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パネル(写真/領収書/鍵)を裏返す→表の順で情報強度を上げる
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線を引く動作(糸/レーザーポインタ)で位置関係を読者に刻む
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第三者の反応を中継(刑事のメモが止まる/容疑者が水を飲む)
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比喩は一発で十分:「あなたの嘘は、穴の空いた水槽です」
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動機のコアは名詞で言う:「あなたの動機は“見栄”です」
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観客役(助手/友人)にバカの一言を言わせ、説明の踏み台にする
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段落頭の接続詞で論理の向き先を明示(だから/しかし/ゆえに)
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フラッシュバックは一枚絵だけ(多用すると“反則感”)
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モノの証言(砂糖は湿気る/氷は溶ける)を一つ
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Q.E.D.の標識を置く(「以上です」「これで全て説明がつく」)
11. NG→改善:ダメ口上の解剖
NG例
「犯人はあなたです。あなたは被害者を恨んでいました。だから刃物で刺しました。凶器はあなたの部屋から出ました。証拠は以上です。」
問題点
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因果が直列になってない(恨み→刺す、の間に機会/手段がない)
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代替仮説を潰してない(凶器の共有可能性)
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決定打が弱い(“出た”だけ)
改善例(要約)
「この部屋は密室ではありません。鍵は“形が同じ”で、合鍵ではない。氷の鋳型で一時的に鍵を作れたからです。
00:10、停電。冷凍庫が止まります。氷は急いで溶ける。あなたが出ていけた時間は1分以内。
この1分で移動できる距離は約100m。廊下の水滴の列は78m分しかない。あなたは残り22mを靴を脱いで移動した。だから足跡が途切れた。
そして決定打。あなたの靴下の繊維が、被害者の部屋の窓枠に残っている。靴下は新品に見えるよう履き替えたが、足裏の汚れのパターンが控室の床と一致した。
恨みが動機? それだけなら機会は作れない。あなたには盗作が露見する恐れという“今ここでやる利益”があった。」
→物理+数字+利益の三段で刺す。最後に倫理の核(盗作の恐怖)で着地。
12. 500字ミニサンプル:静かな口上
「密室は、作られたんです」
私は写真を裏返した。被害者の部屋、窓の外。逆さの水滴。
「雨は東から吹きました。窓枠の外側の水滴が、内側へ垂れているのはおかしい」
刑事のペンが止まる。
「窓は一度、外から拭かれている。拭いたのは布。あなたのジャケットの裾です」
容疑者の喉が跳ねた。
「00:12、停電で館内放送が止まりました。あなたは掃除ロボを手動で動かし、廊下の水跡を消した。だから足音だけが残る。
でもロボは角が苦手だ。ここ、22センチだけ水が残った」
私は指で示す。
「この幅は、あなたの靴の内寸です。
窓の内側から鍵を掛け直す方法? 氷です。型はグラス。冷凍庫は停電で溶ける。鍵は消え、密室だけが残る」
彼は目を閉じた。
「あなたがしたのは殺人じゃない。露見の回避です。盗用がばれて、あなたの講演は今日で終わるはずだった。だから、今日だった」
風が入った。窓の水滴が、一つ、正しい向きに落ちた。
「以上です。Q.E.D.」
13. 感情の着地:断罪ではなく「認知の更新」
解決の最後は裁判じゃない。物語としては、価値観の更新がゴール。
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犯人:罪の理由を一語で(「恐怖」「見栄」「赦し」)
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探偵:世界観の揺れを一行で(「真実は人を救わない。それでも言う」)
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周囲:余波を置く(記者が外で待つ/SNSの通知/雨が上がる)
ここが刺さると、読者はページを閉じずに次章へ歩く。
14. “読者への挑戦状”の正しい使い方
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出すなら:核心情報がすでに公開されている直後(出し惜しみは反感)
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文言:短く。条件を明示。「ここまでの描写で、犯人は特定できます」
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回収:解決後にどの情報が鍵だったかをリストで示す
挑戦状は「作者の自信」ではなく「読者の参加権」。タイミング命。
15. よくある地雷と回避策
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地雷:長ゼリフ一本棒読み
→相手の割り込み/小道具操作/フラッシュバック一枚でビートを刻む -
地雷:物理無視の神トリック
→自然法則の証人(温度/湿度/重力)を置き、一度だけ数字で裏打ち -
地雷:感情過多で論理霧散
→決定打→沈黙→動機の順。逆順にしない -
地雷:代替仮説の放置
→最有力の別解を一個だけ挙げ、利益/物理/時間で折る
16. 実用チェックリスト(保存版)
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FOP+CMEで棚卸ししたか
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推理口上は6ブロック(宣言→棚卸し→仮説→反証→決定打→感情)になっているか
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タイムライン/見取り図のどちらかを文中で提示したか
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数字を一度だけ使って確度を上げたか
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赤いニシンは“利益なし”で無力化したか
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代替仮説を一つ示して折ったか
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可視の証人(物/人/自然法則)を用意したか(できれば二本)
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セリフの順(オープン→クローズ→刺し込み→沈黙)を守ったか
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Q.E.D.の標識を置いたか
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最後に余波を一行置いたか
17. 15分ドリル(毎日まわせ)
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ドリルA:タイムライン100秒
事件の100秒を10秒刻みで10行。空白を必ず一つ作る。 -
ドリルB:赤ニシン→利益で撃破
ミスリードを一つ作り、犯人の利益がない説明で潰す150字。 -
ドリルC:決定打作文
物理/人/自然法則の三種の決定打を各150字で。どれが一番“画”になるか比較。
18. まとめ:推理は「再配置の芸術」
かっこいい推理シーンは、バラ撒いた日常が一列に並ぶ瞬間を見せる芸。
コツは三つ。
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棚卸し(FOP+CME)で破綻を消す
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口上の型でテンポを作る
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決定打+感情着地で読者の心に二重の拍手を起こす
君の探偵に、一本の線を引く手を与えよう。線が結ぶのは証拠だけじゃない。読者の認知と、物語の価値観だ。
では、事件を片付けに行こう。以上です。Q.E.D.
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